眠れない夜に

ペパーミントグリーンの風

ドラセナはベッドの枕元で夜通し闇を見張っていた。
夜明け前のあいまいなひと時、彼がしばしまどろむのを僕は知っている。

僕の体は床上30センチの波間に漂い、夢の余韻に浸っている。

もうじき彼女が来るだろう。
カーテンの隙間から朝陽が差し込み、断固とした光の下に、否応なく物事の輪郭が定められてしまうのだ。
そして、きっちり結い上げた彼女の髪のように、すべてがパッチワークのピースみたいに組み込まれてしまうのだ。

僕は時々思う。
あるべき姿ばかりが尊重されるのはなぜなんだろう。
誰にとってのあるべき姿なのか。
少なくとも僕にとってのじゃない。
所定の時間に、所定の手続きで、所定の場所で。
「所定の」って、誰が定めたんだ?

「それは常識だから」
「常識はずれなことをするもんじゃない」
いったい誰の常識?
僕の常識と君の常識は違うらしい。
当たり前だ。

日が昇る前、あれほど自由に浮遊していた森羅万象が、一つ一つ所定の場所に、所定の姿で固定されてしまう。
太陽の光は錦の御旗みたいに威張り散らして、あらゆるものを意のままにしようと地上を塗り固めていく。
僕たちは、鎖でつながれた囚人のように、首をうなだれ息をひそめて、再び夜の訪れを待つしかないのだ。

僕は部屋の空気を動かさないよう、静かに壁伝いに移動した。
シャワーの栓をひねると、ひんやりした水しぶきが心地よく体を流れ落ちていく。
僕は眼を閉じたまま、泡立ち、体の中にしみとおり、とろけていくような感触に身を任せた。

「マサオさん、マサオさん、まだ寝てるの?」

彼女は無遠慮にドアを開け、カーテンを全開にした。
まぶしい光が部屋を満たした。

「マサオさん、早くしないと会社に遅れるわよ。」

「いやだわ、またシャワーを出しっ放しにして。」

ペパーミントグリーンの透明な風が、するりと彼女の傍らを抜け、バスルームから出ていった。
ドラセナは、いつものように薄目を開けて一部始終を見ていた。
大丈夫、彼は口が堅いから。

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