俺はすでに手に入れたことがあるのだ。
空にかかる月を
あれは去年の夏のことだった。俺は月を眺め、庭の柱の列なりの上にかかる月を愛撫していたときから、月のほうには俺の気持ちがわかっていたのだな。
あれは8月のある美しい夜のことだった。月のやつ、ちょっとばかり気取っていたっけ。俺はすでに横になっていた。初めのうちは地のように赤く染まったその姿が、地平線の上に低くかかっていた。
やがて月は高く上り始めた。次第に軽やかに、ますます勢いづいてな。上るほどにその輝きは増していった。ついにそれは、星々の擦れ合う響きに満ち溢れたこの夜の最中に、乳白の水をたたえた湖のようになった。
その時だ。月は俺のところへ訪れて来た。
熱気の中を、優しく、軽やかに、素裸の姿で。
それは部屋の闇を越え、緩やかな、しかも揺るぎない足取りで、俺の臥床まで訪れて来て、そこに一杯にあふれ、俺をその微笑ときらめきとで満たしてくれたのだ。
本当に俺は月を手に入れたことがあるのだ。
俺はただ月が欲しいのだ。
俺は月になりたい。
恋人達の頭上でも、殺戮の血しぶきのまう戦場でも、島影一つない大海原にあっても、変わらず、静かに微笑みをたたえ、青白い横顔で、眉一つ動かさずに高みを通り過ぎるあの月に。
俺は月が欲しい。月になりたい。
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