「あなたは私のことをちっともわかってくれなかった。いえ、わかろうともしなかったわ。」
「そんなことはない。僕はいつだって君のことを一番に考えていた。君の好きな花、君の好きなお菓子、君の好きな歌、なんだって君の思い通りにしてきたじゃないか。」
「全然わかってないのね。花やお菓子を並べればいいってもんじゃないわ。」
「僕はいつも君の喜ぶ姿を見たいがために、できることは何でもしてきたつもりだ。春の日差しのように優しい笑顔、小鳥のさえずりのようなその声、陶器のように滑らかな肌、栗色の髪のうねり、君のすべてが僕の暮らしを明るい光で照らしてくれる。」
「私はあなたの電気スタンドとは違うのよ。あなたはいつも何も言わずに私を見ているばっかり。私は人形じゃないのよ。あなたのペットでもない。」
「僕は君が目をキラキラさせながらとりとめもないおしゃべりをしたり、思いがけないことをしてはしゃいだり、すねたり、笑ったりする様子を見ているだけで幸福なんだ。」
「ご立派なお仕事をたくさんなさっているあなたから見たら、私のすることなすこと、取るに足らないことばかりでしょう。でも、私はいつでも大真面目だし、真剣にやってるつもり。」
「君と知り合ってからというもの、僕の人生はそれこそ薔薇色になった。むやみに忙しいだけで退屈だった毎日が、モノトーンからフルカラーになったみたいに輝きだした。つまらなく思えた仕事も君の笑顔を思い描くとずんずん進む。仕事を終えれば君に会えると考えるだけで、無意味な時間が胸躍る時間に変わった。君の声を聴き、君の姿を見る、それだけで僕は満たされた気持ちになる。」
「だからそれが違うのよ。あなたは自分のことばっかりで、私の気持なんかちっともわかろうとしない。まるで、アンドロイドか何かみたいに、私にも心があるっていうことがわかってないんだわ。」
「僕たちは十分理解し合ってきたじゃないか。快適な住まい、美味しい食事、着るものだってなんだって、君の希望は全て叶えて来たし、君は笑顔と愛らしさと、存在そのもので僕を楽しませてくれている。君の価値を僕以上に理解し、敬意を表する人間が他にいるだろうか。」
「いい加減にしてよ。もうたくさん。」
「君が起こると小鼻がピクピク動く。それがまた、たまらない魅力なんだ。」