眠れない夜に

風の宮殿

ある晩、私はジャイプールの宮殿のテラスの片隅で、夜風に身を任せていた。

かつてのハレムは、すべての装飾をはぎとられて今は虚ろだ。

灼熱の砂漠を歩き続けて火照った足に、大理石の床はひんやりと心地よい。
青白い月が宮殿を見下ろし、長い柱廊を光の中に浮かび上がらせている。

柱の影に目を凝らすと、そこかしこに人影があった。
黒いヒジャブで身を包んだ女たちが、物憂げに柱にもたれかかっている。
月を眺めているのか、何かを待っているのか、虚空を見つめているのか。
はるか昔に粘土で作られた人形が、そのまま並べられているかのよう。

どこか遠くの路地裏で犬が吠えた。

長い髪を垂らし、古びた腰布一つをまとった老人が、柱を背に膝を抱えて座っている。
瞼を閉じたまま、何かつぶやいている。
繰り返し繰り返し、歌のような、経文のような、悲しげな響。

砂漠を渡ってきた風は、戯れに宮殿の中を吹き抜け、また、どこかへ去っていく。

私は父を知らないし、母の顔も知らない。
いつどこで生まれ、どこで育ったのか、とうに忘れてしまった。
旅から旅、いつもどこかへ向かう途中だ。
私はどこに行こうとしているのだろう。
何を求めているのだろう。
そもそも、求めているものがあるのかどうかさえ分からない。

ただ、風が私を誘うのだ。
風が、見知らぬ地へと、背中を押しやるのだ。

夜は旅人に優しい。
死を待つ者に優しい。

青白い月の光が彼らの額に印を与え、旅立ちの時を告げる。

私は生まれた時を知らないし、いつどこで息絶えるのかも知らない。
地上に絶え間なく行き過ぎる風のどれかひとかけらは、私の生まれた時を知っているかもしれない。
そして私の呼吸が止むときにも、風は何気ない素振りで頬をなでていくのだろう。


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