眠れない夜に

タコ

どうせ私はオツムが軽いのよ。
あんたなんかに言われなくったって分かってるわ。

こうして叩くとね、カラーンって音がする。
アッケラカンとしたものよ。

そうよ、軽いのは頭だけじゃないってね。
よく知ってるじゃないの。

私って根っから軽いのね。
ていうより、もともと根なんてありゃしない。

チョンと突っつけば、どっちへでも転がっちまうってわけ。
大風が吹いたりしたら、たちまち舞い上がって吹っ飛んじまうわ。

行き先なんか知らないわよ。
そんなの私の知ったことじゃない。

そうね、風がなくったって、じっとしてるってのは我慢がならないわ。
いつもポワーンと浮かんでて、あっちへフラフラ、こっちへユラユラ。

糸の切れたタコ?
そんなもんかもしれない。

でもさ、地面にへばりついたままってのよりか、マシじゃない?

よくいるじゃない。
飛び上がろうにも体が重すぎてさ、膝を曲げた途端にバランス崩して、頭からコケちゃうヤツ。
バカバカしくって、シャレにもなんない。

タコ?
ほんと、タコよ。
海の底にいるタコ。

頭ばっかでかくってさ、あんなにたくさん足があるから、どんなに素早く動くのかと思ったら、あれで四方八方の安全を確かめてんのよ。

で、ようやく意を決して動いた先は、真っ暗なタコ壺。
それで釣り上げられてりゃ世話ないわ。

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