スポーツクラブのロッカールームで度々顔を合わす人がいる。
かなりご年配のご婦人である。
腰が曲がって、半ば伝い歩き。
ロッカーは上下に分かれており、自分はいつも上の段を使う。
列はどこでもいいが、前後左右も空いている場所を探す。
壁のように並んだロッカーの前に長椅子が設置されてあり、着替えもそこで行うから、
周囲が混んでいると煩わしい。
時間帯により混雑具合は変化するが、他のメンバーもよく心得ていて、臨機応変に空いた場所を探す。なるべく互いの接触は避け、ストレスを減らしたいのはみな同じだ。
「567」の番号札のついたロッカーは、大概空いているのでラッキーナンバー。
仏滅だろうが、第4病棟だろうが関係ないと思っているが、こだわる人も多いのだろう。
例の女性は、混雑具合には全く無関心であるらしい、ということに最近になってようやく気付いた。
どれだけ人が密集していようと、B列の左から5つ目のロッカー1択。
運悪く塞がっていればその隣。
何度か鉢合わせして、身動きが取れなくなった。
上の段の使用者は彼女がロッカー前を占領している間、扉の開閉ができない。
勿論、着替えや荷物の出し入れもできない。
彼女は泰然自若、マイペースで行動する。
「上の扉、気を付けてくださいね」
声掛けにも無反応なので、耳が遠い可能性も大きい。
終始前屈みだが、ふいに背筋を伸ばすこともあるので、油断できない。
よって、出くわした場合、身ぐるみ抱えてお引越しすることに決めた。
年齢を重ねると体がどんどん固くなる。
脳ミソだって体の一部だから、固くなって物覚えが悪くなる。
毎日を生きていくには、その時その時でベストを尽くすしかない。
ドアを開けたらまっすぐ奥まで進み、突き当ったら左に3歩、下の段のロッカーを開ける。
彼女のルーティーンに、そう刻まれているのだろう。
雨の日も風の日もスポーツクラブに通い、ウェアに着替えてレッスンに出る。
体で覚えた良い習慣は、一生の宝だ。

