犬の散歩時に持ち歩く袋に、小さな鈴がつけてある。
ある晩、歩道橋のたもとを通りかかった時、鈴がいつもよりくっきりと澄んだ音色を立てたように聞こえた。
ああ、鈴虫だ。
秋の虫たちが鳴き始めると、いつも不意打ちを食らったように感じる。
夏の終わりが見えずにへこたれている最中、ふいに暗がりで妙なる調べが沸き起こる。
鈴虫は、袋につけた鈴の音を、ライバルの声と勘違いしたらしい。
対抗心むき出しで、鳴きたてる。
気の毒になって鈴の音を封じたら、向こうも鳴き止んだのでほっとした。
それから毎晩のように、鈴虫の鳴き声が聞こえていたが、ある晩を境に聞こえなくなった。
恋は実ったのか。
命が尽きたのは確かだ。